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主人が駐在先の米国で嘔吐し、それ以前も2ヶ月ほど頭痛が続いていたので、現地の救命救急室(ER)で診察を受けました。受診時は自分で歩いて、意識もはっきり、血圧、脈拍、呼吸数なども正常でした。

CTの結果クモ膜下に出血の跡があると言われ、すぐにICUに入院。翌日から血管造影、MRIなどの検査をしましたが、動脈瘤は発見されず、原因不明のクモ膜下出血とされました。

出血が少なかったようで1週間ほどで退院したのですが、2日後にまた頭痛でER受診。ステロイド投薬で自宅に戻りましたが、その後も座ったり起きたりすると後頭部と前頭部に激しい頭痛がして、食事も寝たまま食べていました。

自宅に戻ってから1週間ほどでドクターに会い、状況を説明したら、今までの薬をやめて、入院中も使っていたステロイドと胃薬、痛み止めの処方がでました。その後まだ頭痛は残りましたが、2週間後に受診した時にはだいぶ頭痛も解消され、普通の生活ができるようになりました。

しかしその後に撮ったCTで左右両側に慢性硬膜下血腫があることが認められ、ドレーンを使った手術をすすめられました。
この時点で本人の希望でアメリカでの手術はやめて日本に帰国しました。
日本の先生に渡すため、米国での入院中の記録を取り寄せたところ、いちばん最初にERに行ったときのCTの所見で既に硬膜下水腫があり、その後のCTではそれが6mm、8mmの硬膜下血腫になっていたことが記載されていました。
しかし米国のドクターからは、病名はクモ膜下出血とだけ言われ、硬膜下血腫とは1度も聞いていませんでした。

思い返すと、彼の頭痛が始まってからERに受診するまでの間、横になっていると落ち着くと言っていたし、午前中だけ仕事をして帰宅し、朝までひたすら寝ている(寝ている間は痛みはない)と言ったことが多かったので、いろいろ自分で調べてみて、突発性低髄液圧症候群の症状に似ているなぁと思いました。
でも米国の医師が低髄液圧症候群を知らないはずはないし、髄液に関してはなにも所見がなかったので、本当のところはわからないのですが...

米国から取り寄せたCT・MRI・血管造影・入院記録などを元に、明日、帰国後はじめて日本の病院で説明を受けます。慢性硬膜下血腫の除去手術も日本で受ける予定です。
頭の病気で本当にどうしたらいいか不安でなりません。先生のご意見をいただけたら幸いです。

お答え
 

ふーむ。結果的には慢性硬膜下血腫でよかったですね。本当に。これは、簡単な手術で済む病気ですから。
といっても、たぶん医療不信はぬぐえないでしょうね。

まず、頭の骨と脳みその間には三層の膜があります。骨のほうから、硬膜、くも膜、軟膜の三つです。

1)骨と硬膜の間の出血を硬膜外血腫と呼びます。主に骨折を伴うような外傷で起こります。血が出たり、溜まったりするためには、どこかの血管が切れなくてはなりません。硬膜外血腫はその大半が骨折のために、硬膜の血管が切れて起こります。まれに、硬膜の血管の奇形でも起こります。

2)硬膜とくも膜、脳の間の出血を硬膜下血腫と呼びます。これには二通りあって、急性のものと慢性のものとがあります。急性のものは大きな外傷や、ボクシング、あるいは小児の軽微な外傷で起こります。

脳は骨の中で硬膜から出る橋静脈という血管でぶらぶらと髄液の中に浮かんでいます。この静脈が外傷で切れてしまったのが、急性硬膜下血腫です。ボクシングのアッパーカットで頭が動くと、ぷかぷかと浮かんでいる脳は遅れて動きます。その結果、橋静脈が引き伸ばされて切れてしまうのです。

よく頭の怪我は時間がたってからが怖いといわれているやつです。最初は元気でも、数時間経つと麻痺が出たり、意識がなくなったりするからです。ボクサーが試合終了後亡くなってしまうのはこのタイプです。僕も何人かの手術をしましたが、結果はよくありませんでした。

3)一方、慢性硬膜下血腫は、まったく別の機序で起こります。ちょこっと頭をぶつけたり、そんな記憶もないぐらいの外傷で起こります。ちょこっとした外傷で、ほんのわずかな出血が起こります。それに対する反応で周囲に膜ができます。膜はすこしづつ髄液に血が混じった液体を溜め込んでいきます。いわば、硬膜の内側に半透明の袋があって、そのなかに血の混じったお水が溜まっていくことを想像してください。それがある日、限界に達すると慢性硬膜下血腫として発症するのです。

治療は局所麻酔で行う血腫洗浄術といわれるものです。片側だけだと20分ぐらいの手術です。

4)くも膜下出血はくも膜の内側に出血したものを言います。多くは脳の血管にできた動脈瘤が破裂して起こります。この場合、血管撮影をしないと動脈瘤は分かりません。動脈瘤を発見した場合は、小さなクリップでその動脈瘤の根本を留めてしまうクリッピングという手術をするか、最近では血管内手術といって、カテーテルで動脈瘤の中にコイルを詰めていく方法も盛んになってきました。

くも膜下出血は、医学が進歩してきたとはいえ、まだまだ死亡率の高い病気です。というのも、今言ったクリッピングも血管内手術も単に再出血を防ぐという意味しか持たないからです。

実は、脳の表面にべったりと血がくっつくと、脳を直接破壊します。さらに立ちの悪いのは脳の血管が細くなってしまう「脳血管れん縮」という状況が起こってきます。この結果、出血したにもかかわらず、脳梗塞が起こってしまうのです。

ですから、出血してしまったら、いまだに社会復帰できるのは20%程度の方しかいません。
また、くも膜下出血は外傷によって脳の表面の小さな血管が切れることでも起こります。

5)軟膜の内側だけに出血することはあまりありません。

以上が簡単な説明です。で、ご主人の場合、以下のことを理解しないと納得がいかないと思います。

まず第一に、アメリカの家庭医はCT,MRIといった手立てを持たないということです。MRIなんかは日本中にある台数とアメリカ中の台数がほとんど同じということを考えれば理解できると思います。保険制度の違いです。
日本ではこういったケースの場合、多くは専門の病院へ送られますが、多分アメリカではご自身で要求するか、あるいは、入っている保険がそれをカバーしない可能性があったのかもしれません。(あくまでも想像ですが)

第二に、ERでの扱いですが、初期の硬膜下血腫はわかりにくいということ。
そして、くも膜下血腫の慢性期には起こりうること。
少なくともERの医者は血管撮影を行っており、その点では、なんらかの出血の可能性を考えていたのだと思います。ただ、その時点で硬膜下血腫を考えていなかったのか、それとも説明するのを忘れたのか・・・・そこら当たりは、文字通り藪の中ですね。

それともうひとつここでも入っていた保険といった病院の問題があります。
日本は国民皆保険ですから、すべての人は最高の医療を受けるチャンスがあるわけです。
順番さえ待っていれば、平等にチャンスがあるのです。ところが、アメリカは保険によって、つまり、お金がなければ、ちゃんとした医療は受けられません。
お金しだいでERでも誰が見るかが変わってくるのです。
さらに言葉も問題もあると思います。医学用語は日本語でも難しいものです。
ましてや、英語となるとかなり誤解も生じやすいと思います。

結論を言いますと、アメリカの医者がどうだったかということは、よく分かりません。

言い換えれば、日本であれば、多分だんなさんの硬膜下血腫は早く発見されたでしょうが、もしこれがくも膜下出血であったとしたら、ERのような血管撮影は行われず、見逃されたでしょうねということでしょう。アメリカは訴訟社会だから最悪の状況を予想して検査をやったということでしょうかね。くも膜下出血は致命的、硬膜下血腫は致命的ではないという原則がありますから。だからといって結果的にはすこし診断が遅れたともいえるのですが。

ご主人の場合は日本に帰ってこられており、ちゃんとした診断もすでに受けられているわけですから、その治療方針でやられればいいのかなと思います。アメリカでのやり取りのせいでごっちゃになってらっしゃるでしょうが、慢性硬膜下血腫とすれば10日間ぐらいの入院(病院によってはもう少し短い)ですむはずです。
アメリカのことはこの際忘れてまずは治療に専念してください。

日本の医療制度はそれなりに素晴らしいものです。ところが、近い将来それが破綻して、今回アメリカで体験されたような嫌な思いをする時代になるかもしれません。だからこそ、今、みなさんに医療、介護といった問題に眼を向けていただきたいのです。

では、お大事に。

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