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このエッセイは『ばんぶう』(日本医療企画)に掲載されたものです。
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  Oh!診 (1995)
 

今を遡る事33年、時の日本医師会長、武見太郎により「健康増進時代」は始められた。
私が5歳の頃である。

自慢ではないが私の世代が本当のTV世代である。街頭テレビの力道山の空手チョップのことも覚えているし、東京オリンピックで一部カラー放送になった事も記憶に鮮明だ。初めて月に人間が降り立った瞬間も、眠い目を擦りながら見ていた。1ドル360円の時代にチャンネルをひねるだけで世界中の何処にでも行くことが出来た。テレビの一般への普及と我々の成長は平行だった。

少し前に結婚適齢期はクリスマスケーキにたとえられた。25歳になると価値が下がると言われた。その5年後、時代はトランタン、つまり30代の女性がもてはやされるようになった。テレビのターゲットはこれほど狭い世代に集中している。

私と同い年の純粋なテレビ世代のディレクターK氏から電話があったのは去年の暮れだった。日本医師会が提供している「健康増進時代」を担当する事になり、一大転換をはかりたいと言う。そもそもこの番組は医師会会員つまり医者向けに作られた番組である。今考えれば不思議な話だが、出来た当初の世の中の状況を考えれば納得がいく。UP TO DATE な情報が入手困難な時代であり、生涯教育という観点からも必要な番組であった。また、同時に国民に医療のことを理解して貰いたいというもうひとつの目的も併せて持っていた。そして時代は変った。昨日出された海外の雑誌が今日手に入る時代、さらにはコンピューターのインターネットを使えばリアルタイムにさまざまな情報が手に入る時代である。各疾患に関するビデオも数多く出版されている。一方、患者さんの方も下手な医者より知識を持つようになった。

最早、番組の役割は終わり、新たなる方向性を探る必要がでてきた。

今日、医療はさまざまな問題を孕んできている。膨大な医療費の問題、医師過剰とそのクオリティ-の問題、行政に於ける福祉と医療の関係、いわゆる3分間診療、インフォームドコンセントなどなど。我々が、与えられた25分間でなにをすべきなのか。

我々の意見は最初から一致した。いろいろ言いたい事はある、でも、先ずは見てもらわなくっちゃ。まず視聴者を引きつけておかなければ話にならない。決して迎合する訳ではないが、先ずは患者の目の高さに医者を引きずりおろそう。その為に往診にいこうじゃないか。誰しも一度や二度の経験があるあの懐かしい往診、実際に患者さんにでて貰うだけではなく、こちらから行って診察する。このことではじめて医者と患者との間の壁が取り払えるんじゃないか。それで初めて我々の意見や疑問を患者さんに判って貰えるのではないのか。ここからこの番組は始った。

医師会内部での調整、テレビ局サイドでの調整など問題は山積みだった。関係諸氏の苦労と努力は並大抵のものではなかった。だって、あの武見太郎が作った番組を変えようってんだから。

そのあたりの話はまたの機会に。

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