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このエッセイは『ばんぶう』(日本医療企画)に掲載されたものです。
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  手術してきました(2002)
 

正月早々より腰痛になった。単なるぎっくり腰だろうと多寡をくくっていたのがまずかった。

朝、病院の玄関で動けなくなり、そのまま硬膜外ブロックを受ける羽目に。MRIを撮ったところ、見事な椎間板ヘルニアがある。もはやレーザー治療の対象でないのは一目瞭然、2月早々に手術と相成った。

師匠の病院(常盤台外科病院 03-3960-7211)に入院となり、そこはかとない不安が…。

信頼している先輩に手術して頂く訳で、ましてや自分もやった事もある手術だ。充分に納得はしている。しかし、なんとなく落着かない。

それは、飛行機はまず落ちないが、それに乗れば必ず墜落する可能性は生じるというのに似ている。20年間に遭遇した様々なトラブルが脳裏をよぎる。医者である事を喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。

全身麻酔の体験は面白かった。

「では、眠くなりますよ」の声と共に、スーっと落ちていく。本当に落ちていくというのが適切な感覚だ。

気がつけば遠くで誰かの呼ぶ声がする。白っぽい霧の向こうに人影が見える。思わず手を伸ばそうとすると「あーっ」と言う声で手が押さえられてしまった。

次に気がついたのは病室だった。

手術は寝ている間に終わった。全く苦しくはなかった。ところがどっこい、麻酔がきっちり覚めるまでの数時間の苦しい事、予想もしなかった。

筋弛緩薬の名残りだろうか、金縛りに遭った様で実に居心地が悪い。毛布の重さが全身にかかってくる。身動きできない事がこんなにも辛いものか。

尿道に入れたままのバルーンが気持ち悪い。ふーっと意識が戻るとそのことばかりを気にしている。そして、すぐに金縛りの世界へ。

先輩にそのことを訴えると、成る程いい体験だから、後で状況を教えてと言う。患者さんからは聞けないからと。理性的な瞬間には成る程と思い、金縛りの瞬間にはそんなことはどうでもいいとなる。

ともすれば外科医の緊張は手術の終了までで、そこまでが治療のハイライトとなる。一方、患者は手術が終わってからが本当の苦しみの始まりとなる。極論すれば、元々の病気の苦しさは関係ない。ここでは、医者の役割は実に無力だ。ここでは看護婦さんの気配りが実に有り難い。勿論、夜中まで付き合ってくれた先輩には感謝なのだが。

眼から鱗と言っては、お前は今まで何をしていたと言われそうだが、恐らくは多くの外科医は同じ感覚で仕事をこなしているはずである。恥ずかしながら、痛みを知って初めて気がついた事である。

閑話休題。政局は外相更迭事件をきっかけに大変な状況になってきた。雪印に始まる疑惑も何処まで広がるのだろう。

小泉さんは大相撲の表彰式で「痛みに耐えて頑張った。感動した」と言った記憶がある。なるほど今や日本中がリストラや不況といった痛みに耐えている。

ひょっとすると議員やお役人といった人達だけが痛みを体験していないのかもしれない。彼らだけがリストラの対象外だから。痛みを体験して初めて分かる事もあるのだ。

小泉さん。思い切って議員を半減させてはいかが。これで三方一両損だよね。

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