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このエッセイは『ばんぶう』(日本医療企画)に掲載されたものです。
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  せめて、笑ってましょうか?(1998)
 

1997年も終り、1998年となった。あけまして、おめでとうございます。
(正確には、この原稿を書いているのは1997年の年末である)

1997年は本当に激動の一年であった。特に例年にないほどの凶悪事件の多さ、そしてそれらの報道の在り方に多くの示唆をもたらした一年といえよう。

例えば、神戸での猟期殺人事件の犯人である中学生に対する報道。一部、写真週刊誌では犯人の写真まで公表した。彼等は、報道の自由を盾に自分たちの正義を主張した。

然るに、彼の少年は病的精神状態と診断された。時、既におそしである。少年の兄弟は奇しくも私の実家の近くの中学校にひっそりと転校したと聞く。勿論被害者のかたの人権こそ守るべきではあるが、それと、加害者への攻撃は違う。

パパラッチの追跡を振切ろうとして、事故死したダイアナさん。個人的な生活を曝露される心の痛みたるや想像にかたくない。

時効寸前に逮捕された女性、彼女の私生活はマスコミの格好の餌食となった。さらに、被害者の私生活も赤裸々にかたられた。

年末には写真週刊誌の餌食となった伊丹十三監督の衝撃的な自殺、などなど。

もお、よしてくれと言わんばかりの状況だ。

ある人が僕に言った。人間、命の次に大切なのはお金だ。だから、その人のお金に対する考え方、使い方を見れば、人格が想像できると。多くのマスコミと称するやから達、パパラッチ達は結局はお金の為にくだんの行為にいたっている。そこには、言論の自由と言う詭弁をろうして、金もうけにはしる金の盲者たちしかいない。法治国家においては、金銭の為に他人に危害を加える事を犯罪と言う。よって、彼等は、犯罪者であるはず。

というような話を美人女子アナといわれる僕の古くからの友人女性に話した。
彼女の答えは実に明快だった。

「やっと、あたしの気持ちが判った?あなたも、書く機会があるんだから気をつけてね。まあ、はじめは、あたしも気になって眠れない日もあったけど、今は一晩寝れば大丈夫よ」

成る程、いつの間にか自分も人を傷つけているかもしれない。気がついていてそれでもやるのは悪人だ。問題なのは、気がつかずにやってしまう人たちだ。あるいは、気づいてもノーと言えずにやってしまう人たちだ。また、そういう記事を好んで読む人たちも同罪といえよう。

世の中は混乱している。

マスコミがかつての正義をなくしてしまっている。経済は、先行きの不安感から破綻をきたしている。政治は、その場限りの権力闘争に明け暮れ、まさに世紀末の様相を呈している。どうすりゃいいんだろう。まさに、日本の戦後の混乱期に匹敵するぐらいの状態だ。

あれこれ考えていると、くだんの女性が言った。

「なに、難しそうな顔してんのよ。なるようにしかならないんだから。せめて、にこにこしてなさいよ。さあ、おごったげるから、ごはんたべにいこ」

戦後日本の復興は、きっとこんな女性の強さに支えられていたんだろうなあ、きっと。今年も女性には頭が上がりそうにない。だから、せめて、笑顔でいることにする。

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