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このエッセイは『ばんぶう』(日本医療企画)に掲載されたものです。
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  格付けということ(2003)
 

先日、卒後20周年の同窓会があった。来賓の学長から「入学試験制度の変更により倍率は50倍となり、偏差値も上がった。改革の成果が得られている」という報告があった。この改革によりわが母校には優秀な人材が集まってきているという。格が上がったという由。

はてな。何か釈然としない。入学試験の日時と選考方法を変えただけで上がる偏差値とはいったいどれぐらいの意味があるのか。そもそも、医科大学の人気度は、臨床と研究と教育の成果に比例すべきもので、卑しくも試験日に左右されるものではなかろう。

後日、他大学の教授がこぼしていた。

若い女性の研修医を当直させたところ、翌日母親から抗議の電話があったという。

その大学の偏差値も充分に高い。

われわれは株の上下で一喜一憂する株屋になってはいまいか。偏差値がいとも簡単に上がるということは、裏を返せば、本質の伴わないバブル経済と同じである。そもそも、株とはその会社の将来性を見込んだ人気投票でしかない。

大学に残っている同級生は「患者と医者のコミュニケーション」を向上させるために、演劇のディレクターを呼んでシュミレーションをさせるという。
本末転倒だ。そもそも、医者とはそういった能力が最も必要とされる職業の一つであるはずだ。しかるに、それが欠如した人間が入学し、医者になろうとする現実。どうやら偏差値とは必ずしも能力を現す指標ではないらしい。

彼の名誉のために言っておくが、彼も苦肉の策で行なっているという。彼はこうもこぼしていた。「我々の時には考えられない事だよ。普通が通用しないんだ。」

わが同級生たちの意見は様々であった。が、一つだけ共通している感情があった。それは、「競争相手が少ないのは好ましい。」ということであった。

本音である。母校愛はみな一様に人一倍あるものの、現状の医療を取り巻く環境の厳しさは、背に腹を変えられない事態を引き起こしている。そして、それにもまして患者さんとの厳しい関係を生き抜いてきたという自負が、若い世代に対して冷ややかな目を向けているのだろう。

保険料の自己負担分が引き上げられ、近い将来疾病ごとに料金が設定される。もはや保険はその保険自体を存続させるためだけに存在する。まるで、ガスの抜けた気球を飛ばせ続けるために、捨てる砂袋がなくなり、ついには人そのものを捨てにかかっているようなものだ。

医療機関の格付けも始まった。様々な項目に関しての厳しいチェックが行われるという。しかし、そこには熱心に通ってきてくれる近所のおばちゃんたちの評価は加味されない。

そもそも、医者は名医になればなるほど地位とか名誉とか言うものとは程遠い存在になる。先達の言葉である。そのための格付けはすでに存在する。いわゆる「評判」という形で、実に正確に行われている。その証拠にわが国は世界最長寿の国になっている。

フリーハンドで書いたマルは誰が書いても円として通じる。しかし、コンピューターに多角形から円を書かせると人の目には角ばった図形にしか映らない。

格付けとはそういうものである。おっと忘れていた。この国では円周率は3になったのだった。

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