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このエッセイは『ばんぶう』(日本医療企画)に掲載されたものです。
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  少年犯罪について思うこと(2000)
 

少年法が改正される。増加してきた少年による凶悪犯罪に対応しての改正だ。はたして、本当にこれで少年犯罪は抑止できるのだろうか。そして、その実態や心理的背景はどうなのか。

とあるテレビ局の報道担当のディレクター嬢より取材があった。

あきれた。事実を把握していない。

まず、本当に少年の殺人事件は増加しているのか。答えは、否である。驚くべき事に、戦後、少年の凶悪犯罪はある時期を経て激減している。その統計を別のバイアスから解析すると、殺人事件はある世代に特有に多い事が分かる。

つまり、その世代が少年だった頃、少年の凶悪犯罪が多く、その世代が中年になれば、中年に凶悪犯罪が多くなっているということらしい。

凶悪犯罪は昭和10年代生まれの世代に集中するというレポートがある。時代背景として、死が日常であったことや、経済的な困窮などがあげられる。

つまり、現代は決して少年犯罪は多くないということになる。

では、何故こうも少年犯罪が今取りざたされるのか。その一つの原因として、動機が理解しがたいということがあげられるだろう。

かつての犯罪はその動機に対して、ある種の理解をすることが出来た。貧乏や怨恨といった古典的な動機が多かったからであろう。しかるに、現在の少年犯罪の特徴は例えば「人を殺してみたかった」「親への復讐」など到底常識ある人間には理解しがたい動機にある。

理解しがたいことに出会うと人は恐怖を覚える。これが、間違った解釈を産む。

さて、では犯罪数が少ないからと言って、ステレオタイプにマスコミが扇動した結果と言い切ってもいいのだろうか。

否。ある種別の見方をしてみると、自殺と他殺は、向かうベクトルが違うだけで、結局は人殺しと言う点では同じである。さらに、少女の援助交際を自分自身に対する暴力行為とすると、話は変ってくる。我々は統計のマジックに陥っていると言える。社会の不健康度を単に凶悪犯罪で計ろうとすること自体がすでに時代遅れなんだろう。

やはり、現代は病んでいる。多分、少年法を改正しても、事件は減らならないだろうし、被害者の関係者の気持ちも納まることもないだろう。

では根本的な解決策はどこにあるのか。昨今、教育改革だの、日常のしつけをしようなどと言う声が聞こえる。

しかし、我々はここで重大な過ちに気づかねばならない。変えるべきは子供たちではなく、我々自身なんだと。

教育システムの荒廃を招いた我々の中で誰が責任を取ったのか。政治の腐敗と言うが、それを誰が選んだのか。

大人の我々が見ても、現在の日本は矛盾に満ちている。子供たちにまっとうになれと言うのが土台無理かもしれない。

電車の中で、悪ふざけをしている少年少女に注意をする勇気が我々にあるのだろうか。誇りがあるのだろうか。

自分を見つめることに対する恐れが、事実を曲げてしまった。我々の中の不安定さ、アイデンティティーの喪失が時代を、子供たちを作ってしまった。改善すべき事はは我々の中にあった。

自分を見つめる勇気が今必要とされている。

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