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このエッセイは『ばんぶう』(日本医療企画)に掲載されたものです。
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  ミレニアム(2000)
 

いよいよ2000年になった。21世紀まで後一年を切った訳だ。勿論、これは西暦の考え方であり、異論を唱える人もいるだろうが、まあ一つの区切りであることは確かだ。

時が過ぎ行くのではなく、人が過ぎていくのだということわざが、西洋にはある。なるほど時間というものはそういうものかもしれない。

昨日の自分と今日の自分、そして明日の自分はどう違うのか。あまり違わないよという人、いやいや、昨日とは自分は生まれ変わったような気がするという人、明日こそという人、十人十色だ。

生物学的に見ると昨日のあなたと今日のあなたは違っている。というのは、細胞が新陳代謝で服を脱ぎかえるように入れ替わっているからだ。皮膚、消化器、肝臓、膵臓などなど大半の器管の細胞は一定の周期で新しくなっている。一番その周期が短いのが小腸の絨毛を形成する栄養吸収細胞で約24時間で入れ替わっている。皮膚の細胞は約28日間となる。

一方、心臓は細胞自体は変らないが、その中の蛋白質はDNAの働きによって、1−2週間で置き換わっている。外見は変化しないで耐用期限切れの部品交換だけがスムーズに行われている。

これが、脳となると話が違ってくる。脳は新陳代謝で細胞が分裂したり増殖したりはしない。もし、脳の細胞が入れ替わるとしたら、その際にせっかく貯えた記憶や知識が消え去ってしまうことになる。この為に、昨日の自分と今日の自分とが同一である感覚、アイデンティティーというものが存在するのだ。

この脳は無限の可能性を持っていると考えられがちである。果たしてそうなのだろうか。

ここで自然というものに目をむけなければならない。たとえば、この雑誌のページをめくるという作業を考えてみよう。指先の細かい動き、腕の動き、それを追う目の動き、それらを動かす筋肉と指示を出す神経、ものすごく複雑なシステムとなっている。なぜか。それが自然だからだ。

今この原稿をパソコンで書いているが、ページは自動的にスクロールされる。実に単純である。なぜか。脳で考え出されたシステムだから。

究極のデジタルはアナログである。言い換えれば、脳というものは物事を単純化することで、あるいは、その背景にある法則を探ることで科学を発達させてきたといえる。逆に自然はとても脳で考えられないほど複雑で不思議なものであるといえよう。人知が及ばないからこそ自然だともいえる。

歴史HISTORYの語源はHIS STORYである。この場合の彼とはキリストのことである。果たしてこの2000年、我々は、神の意図した時間を彼のSTORYを記してきたのだろうか。

我々を取り巻く環境はどうか。科学のずぶの素人でさえ、次の1000年に渡り我々人類が存在できると考える人はいまい。ひょっとすると、100年いや50年後の世界を想像できるであろうか。人間は自然を破壊することは出来たが、自然を作ることは出来なかった。

子供たちは未来から遊びに来ている。21世紀は子供たちのものなのである。我々はかれらの財産を浪費してはならない。次のHIS STORYはいかなるものか。

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