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このエッセイは『ばんぶう』(日本医療企画)に掲載されたものです。
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  医療費改正(1997)
 

9月から医療費が値上げとなった。何度読みなおしても複雑で良く判らない。判ったのは、個人負担が高くなるということだけ。病院の収入は変らない。

外来の馴染みの患者さんに説明する。
「この9月から健康保険が変りました。おばあちゃんは老人保険だから月2回きてね」
「・・・・・・」
「お薬のお金も少し上がります。6種類以上薬がでているから月3000円ぐらい上がります」
「あたしゃ年寄りだからよくわからないんだけど」
(ぼくは年寄りじゃないけど、今回の改正はよくわからない)
「まあ、ともかく少し高くなってしまうし、月2回きて貰わなくてはならないんだけど、厚生省の決めた事だから我慢してね」
「先生のいうことだから仕方がないねえ。お金があるうちは来られるけど、なくなったらどうしたものか」
「まあ、そんなことはないだろうけど。なくなったらなくなった時に考えましょうよ」
(なんて無責任。でも、ほんとお金がなくなったら、どうしたらいいんだろう。)

医療費は、今後、老人(65才以上をそう呼べばの話だが)人口の増加によりどんどん加速度的に増大する。ましてや高度先進医療もどんどん金を食うようになる。だから、医療費の個人負担分を増やしましょうという理屈らしい。

一見最もらしい意見だが、どうも腑に落ちない。改正(悪?)法が不完全で不備が生ずることはまだ我慢が出来る。いずれ、不備をなおしていけば良いから。お金がないから皆で負担するという意見も賛成だ。これで、従来平等を追及するがうえで生じていた不公平が少し是正される。腑に落ちない原因は別にある。

ここ数年間、入院してやっとリハビリに漕ぎ着けた患者さんを3か月たってしまったからというだけの理由で転院させたり、退院させたり、薬を院外処方とする理由を説明したりといった本来の診療治療以外の事でどれだけ説明をした事だろう。その労力たるやいかばかりか。説明するのが嫌だとか、時間の無駄だとか言っている訳ではない。

説明する人が違うんではないかといっているだけ。いや、本来、説明するべき人がさぼってるんじゃないのと言っているだけ。

どう考えても殆どの人は老人大国となって、自分たちの医療は勿論生活まで大変になると言う実感はもっていない。漠然とした知識としてもっていても,現実の感覚としては全くとらえていない状況だ。

つまり、いかに国民に対してこの国ではなんの説明もしていないかということの証明となる。いやいや、そんなことはない。ちゃんと官報にのせたとか新聞で発表したというかもしれない。でも現実には誰も判っちゃいない。(医者すらも)インフォームドコンセント、日本語になおせば、説明と同意という概念がここ昨今、時代の先端とばかり取上げられている。もし、これがうまくいっていないと手術が成功しても訴えられたら負けとなる。

厚生省どうやらインフォームドコンセントという言葉を知らないらしい。

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