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このエッセイは『ばんぶう』(日本医療企画)に掲載されたものです。
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  LIVE と EVIL(1996)
 

日本テレビの「OH!診」を始めて一年が経った。視聴率はこの手の番組としては異例の3〜4%。つまり、300万ぐらいの人が見ている勘定になる。毎週毎週、色々な相談や励ましのお手紙やファックスを頂く。その中で最近、強烈な一通があった。

「昨年の6月から、食べては吐くを繰り返し、少しずつ体重が減って行くのが判りました。無理矢理食べてまた吐くと言う日が続いています。(中略)このままでは、母を殺してしまうかもしれないと思い、どうにかして精神神経科へ行ったのですが吐くのをやめられません。この気持ちを治すのにはどうしたらよいのでしょうか。」

いじめによる摂食障害と登校拒否に苦しみ自殺までしようと思っていた女の子からのファックスだ。「OH!診」を見終った彼女、やおら階下の母親のところへ行き、「おかあさん。あたし死ぬのやめた。」そして「ファックスだしてもいいかな。」と聞いた。驚いた母親は娘に事の次第を問い正した。番組の中のコーナー「ちょっと医医はなし」に感動し番組に相談したいとの事。それがこのファックスだ。

その「ちょっと医医話」とは。

英語で生きるとは「LIVE」。これは、前向きにポジティブに生きようとする事で、今ここに居る事を味わいつつ肯定的に生きて行く事を言う。ところがこれを全く逆にすると、つまり、後ろ向きに、ネガティブにくよくよと後悔しつつ否定的に生きていくことになるが、これは「EVIL」罪悪である。いじめられて自殺するくらいなら登校拒否しなさい。どんどん逃げていいのだから。というお話。

後日、番組で彼女のうちへOH!診した。その模様は既にオンエアーされたので割愛するが、賢明な読者諸氏はもうお気付きだろう。ファックスを出した時点で既にこの子は自分自身の気持ちに対して戦線布告を出した事を、そして、みずからの力で問題を解決して行った事を。つまり、別に医者の力を借りなくともこの子は治って行く状態に差し掛かった事を。結果として、2年間いっていなかった中学の卒業式へ行き、高校への入学も決まった。
勿論、自殺も思い止まった。

「煩悩は家の犬、打てども去らず。」飼い犬を捨てたと思ったら、翌日にはまた姿を現しているように、自分では捨てたつもりでも、本当は「さようなら」を言う気持ちすらなかったということはよくある。

4月に39歳となった。不惑の年まで後一年、人から受ける評価などどうでもよいと思いつつもその事に執着してしまう。人には前向きに生きようなどといっている本人がくよくよ悩んでいる。番組にでることによるデメリットにびくびくしている自分。そんな自分にとって、この女の子の話は嬉しかった。少なくとも自分自身が誰かのお役にたった、たとえそれが単なるきっかけだけだとしても本当に嬉しかった。やっと前向きに「LIVE」出来そうだ。

どうやら番組で本当に救われたのは私自身だったらしい。

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