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このエッセイは『ばんぶう』(日本医療企画)に掲載されたものです。
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  岩を砕く(1999)
 

不毛を
砕くように
岩をくだく
絶望こそが 最大の敵
忍耐という静かな情熱で
今日もハンマーを
握る
                   高良留美子

TBS神々の詩にその島は登場した。

アイルランド、アラン諸島。かつて、司馬遼太郎の「街道を行く」で紹介された石灰岩で出来た島。ヨーロッパの西のはて、三つの島からなり、伊豆大島と同じ位の面積だ。

この島には土がほとんどない。どこまで行っても荒涼とした岩だらけの大地が続く。その島に畑を作る為に農夫はハンマーで岩を砕く。来る日も来る日もハンマーで岩を砕く。途方もない時間が過ぎる。忍耐だけが頼り。絶望こそがこの島で生きて行くのに最大の敵だという。

重いハンマーで岩を砕く。農夫は言う、「百万回たたいて砕けない岩はない。」農夫の父もそのまた父もずっとこの作業を続けてきた。土がないこの島では、海草をその砕いた岩の上に敷き詰める。海岸で海草を集めそれを籠に入れて、くだんの畑まで運ぶ。敷き詰めた海草の上に、岩の間から取ってきたわづかばかりの土を撒く。これの繰り返し。

一つの畑を作るのに数週間が費やされる。そこにジャガイモの種をまき、育てる。荒れた土地でも育つじゃがいもを彼らは、神様からの贈り物だという。そして、傍目にはアラン島は神に見放された島にしか映らない。

アランセーターの名前で有名なアラン島の漁師も自然と戦いながら生きている。わずかばかりのロブスターを手に入れる為に小船で荒れ狂う海に漕ぎ出して行く。

何故にこんなところで生活をするのかという疑問は彼らにはない。どのようにそれをやるかが重要なのだ。WHYよりHOWが大事。

アイルランドは妖精の島でもある。島のいたるところに妖精が住むと信じられている。最も神から見放された土地に住むと、かえって神を感じる事が出来る。何もないからこそ、物の価値を見る事が出来る。決して、哲学的なわけではなく、ただ、淡々と日々を過ごす事、そのことが、他人をしてそう見させる。

さて、我が国は如何なものか。勿論荒れ果てた土地ではない。ものもあふれんばかりにある。豊かなのである。

しかし、表面上の豊かさは存在しても、充足感がないのはなぜだろう。どうして、こんなに自殺をする人が多いのだろうか。

何が不足しているのか。

何が不毛の地であるのか。

2000年を前に犯罪はエスカレートし、経済は依然として混迷を続ける。先が見えないと人々は焦り、安定感を不安定な経済に求め続ける。

一体いつの頃から、我々は、岩を砕く事をあきらめたのだろうか。一体いつの頃から、我々は 妖精の姿を見失ってしまったのか。

百万回叩いて砕けない岩はない。

我々の叩くべき岩は目の前に転がっている。

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