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このエッセイは『ばんぶう』(日本医療企画)に掲載されたものです。
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  21世紀の幸せは(2001)
 

ここ数ヶ月の新聞もテレビも伝えるニュースは、アフガニスタンの情勢である。戦争状態なのであるから、仕方がない。

しかし、このおかげで、失業率は5.3%を越え、日本経済はいかんともし難い状況になってきた。

このままでは、小泉首相の言う聖域無き構造改革が失敗する可能性すら出てきた。当初に比べて、リスクが大きすぎるからである。

もし、このまま改革を進めれば、大量の失業者とその家族はいかんともし難い状況になる。受け皿のIT産業も失速してしまった。さりとて、このままでは、もっと駄目になる。厳しい状況だ。

我々は再び戦争に負けた事を理解しなくてはならない。今度のそれは、太平洋戦争のそれとは異なる。目に見えない敗戦だ。

実際、不況とは言え、我々の暮らしは目に見えては悪くなっていない。高層ビルは建設されているし、新車だって走ってる。ただ、先が見えない不安が蔓延している。

だからこそ、問題なのだ。先の敗戦では、否応無しにすべてが破壊され、再生を余儀なくされた。しかし、今回の敗戦は、目に見えた破壊もなく、勝者すら見えない。

形無き敗戦である。

再生への道を我々は歩まねばならない。

グローバリゼーションは実はアメリカナイズと置き換える事が出来よう。テロは断じて許されないが、その後のアメリカの異文化への対応こそ、実はアメリカナイズの弱点を曝け出している。

正義の名のもとに、戦争を起こしているが、実際はそれは不安と恐怖によって後押しされた行為でもある。

まさしくテロリストの思う壷である。テロとは人を不安へといざなう事を目的にしているからだ。

そもそも、不安とは過去から現在までの経験から将来を予測して、その予測と現実との差をいう。ギャップが大きければ大きいほど、不安も大きくなる。

右肩上がりの成長を資本主義社会は夢見ていた。アメリカナイズの社会は、経済成長の後にすべての人の幸せを約束していた。

その予測は21世紀になってことごとく裏切られた。世界はかくも貧困と差別にあふれ不公平に満ちてしまっている。

お釈迦様は苦悩に満ちた世の中を見て出家した。長年の苦行の末、たった一杯のミルク粥の中にすべての悟りを開いた。神ならぬ身ゆえ、想像するしかないが、恐らく彼は過去からの予測によって生じた不安を今の瞬間を味わう事で解消したのであろう。

今この瞬間に生きることこそ、現実と期待との差を無くす方法である。

過去に捕われず、未来に期待せず、ただ、今のこの瞬間に存在できる事を幸せと感じる。すべての現実を受け入れた時、そこに幸福も不幸も混在するという事、その事実を受け入れる事で初めて不安は消失する。

我々は先達からのこの教えを軽んじ、アメリカナイズの社会を作り上げてきた。不安に満ちるのも仕方が無い。

パンドラの箱は開けられてしまった。すべての苦悩が我々の前にさらけ出されている。でも、忘れてはいけない。箱の片隅に「希望」と「愛」がいたことを。

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