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このエッセイは『ばんぶう』(日本医療企画)に掲載されたものです。
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  今こそ文化を残そう(1999)
 

ノストラダムスの大予言、いよいよ恐怖の大王が空から降りてくるという。真偽は7月になればわかる。

さて、現実の世界はというと、きな臭い感じとなってきた。アメリカは、未曾有の好景気で、この文章を書いている時点でのダウ平均が9600ドルとなっている。多くの経済評論家が、この好景気に警告を発している。同感だが、僕には単にアメリカのバブルがはじけるだけではなく、もっと危険な匂いがする。

1998年12月、アメリカはイラクに進攻した。国連の化学兵器査察に対するイラクの抵抗への警告とされている。しかし、本当にそれだけの理由だろうか。

資本主義社会は、消費を拡大し続けなければ成立しない。しかるに、1990年代となって、膨大な生産過剰を続けたために消費は鈍ってきた。そこに、マッキントッシュ、ウィンドウズを代表とする、仮想の世界における消費が始まった。その結果、消費は再び増加を開始した。

ここに、みかんがある。みかんとお金の量で経済が決まる。今やお金の量はみかんの量をはるかにしのいでいる。然るにそのバランスを取るために、絵に描いたみかんを本物として流通させている。これが問題だ。この絵に描いたみかんをお金に換金しようとする人達が出てくると、一気にバランスが崩れる。そのため、そのお金の流れる方向を別の方向にする必要ができてくる。りんごを買わせる方向にしたり、パイナップルの方向にしたりするわけだ。最も極端かつ効率的なものが、巨大なみかんを作り出して、お金を使ってしまうということ。この巨大なみかんこそ戦争である。戦争に勝るほど巨大なみかんは存在しない。しかもそれを買っても食べることはできない。にもかかわらず、人類は5000年前よりそれを繰り返している。

もし、ここで、お金を捨ててしまわなければどうなるか。みかんの数をはるかに上回るお金のためにみかんの値段は高騰し、いわゆるインフレとなる。逆に、お金の量がみかんの量を下回ればデフレとなる。

デフレで滅んだ国はないが、インフレで滅んだ例はいくらでもある。つまり、今回のアメリカの行動はみかんの数が少なくなったためとしか思えないのだ。

現実に戦争が起こるかどうかはさしたる問題ではない。問題は、戦争はすでに起こっているということだろう。武器による破壊という原始的な戦争ではなく、敵が、われわれ自身の中にある経済的成功という欲求である戦争が。しかも、それ自身が原始的な戦争を引き起こすと言う危険をはらんでいる。

サンテクジュベリの有名な「星の王子さま」は、1943年にニューヨークで初版が出版されている。彼自身は、偵察隊のパイロットとして従軍し、その大ヒットを見ずに、地中海に消えた。同時期にイギリスのアーサーランサムは児童文学の傑作「つばめ号とアマゾン号」のシリーズを書いている。V2号ロケットの雨の中での執筆だ。

多くの先達たちが、困難な状況で文化を次世代のために残していった。我々は、今、ノストラダムスにいわれなくとも自然破壊、環境汚染、経済混乱と言った戦争のど真ん中にいる。

さて、我々の残せる文化はどんなものだろうか。

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